健康増進・安全見守りのためのヒューマンセンシング技術クラスターhuman-sensing


三次元センシング技術とAIを融合し、市民の健康増進と安心・安全をまもる

准教授・博士(工学)青木 広宙

■専門分野画像工学,生体医工学,計測工学,福祉工学,スポーツ工学

■早稲田大学理工学部資源工学科 卒業

■慶應義塾大学大学院理工学研究科学位(博士)取得

■所属学会IEEE、電気学会、電子情報通信学会、計測自動制御学会、日本生体医工学会、ライフサポート学会

三次元センシング技術とAIの融合。人に触れることなく呼吸・心拍などを測定

これまでは市民の健康増進を目的として、三次元画像計測技術を応用したヒューマンセンシングシステムの研究・開発に取り組んでいました。しかし、この研究がスタートした当初に比べ、高齢化社会が急速に進んだことを要因として、安全確保や見守りに関して世間の関心が強くなってきました。これを踏まえて、安全見守りについても同様の技術が活かせないかと考え、取り組みの幅を拡げています。
プライベート空間での急な事故の発生を、三次元センシング技術とAI技術により発見、警報を発する見守りシステムを開発しています。
三次元センシングシステムに利用するカメラは、通常の写真を撮るカメラとは違い、「三次元カメラ」や「深度カメラ」「デプスカメラ」などと呼ばれる特殊なカメラを使います。そのカメラを用いて体の動きや形状などを測ります。人体の形の変化を元に、その人の状態や呼吸・心拍などの生体信号を測ることができます。
この技術とAI技術を融合することによって、人と同じくらいの精度で見守り続けることができます。例えば、急に転倒してしまったという事態が発生し、倒れた状態が長く続くようであれば、外部の家族、医療機関や福祉施設などに警報としてお知らせすることも可能です。
 
他にも、生体信号計測への応用が可能です。人が呼吸をすることによって、胸部の形状が変化します。さらに条件が良ければ、心拍と呼吸を分離して計測することも可能です。これまでは、呼気ガス分析装置と呼ばれるマスクを顔面に装着して測定する方法で呼吸を計測するのが一般的でしたが、非接触(無高速)の状態で呼吸信号を測ることができるのです。
また、大きな体の動きが含まれるようなシチュエーション。例えば、自転車ペダルこぎのようなエクササイズをしているような状況においても、呼吸を非接触で測れることが研究の結果から分かりました。
これは世界で初めてわれわれが発見・発明した技術であり、当研究クラスターにおいて、地元企業とともに実用化に向けた研究開発が進められています。
これまでの方法ですと、呼気を測定するマスクを装着することで、息苦しさを感じてしまい、自然な呼吸ができないことから正確な代謝能力が測定できないことも考えられます。また、測定装置が効果でメンテンスが必要であったり、器具の装着や取り外しなどで測定にかなりの時間を要したりしました。これに対し、われわれの三次元画像センシングシステムであれば、無拘束で測定ができますので、所定の場所に座ってすぐに測定開始することができ、測定中のストレス軽減も期待できます。また装置も安価でメンテナンスもほとんど必要としません。
 

病気で体力が落ちている人への活用─医科大学との共同研究で見えてきた課題

現在、埼玉医科大学にこのシステムを設置していただき、呼吸器内科と、リハビリ科の医師と連携して共同研究を行っています。
呼吸器のリハビリテーションとして運動療法が用いられます。
肺疾患の方の治療の効果を調べるためには、まずは呼吸を測る必要があります。ただ、前述の呼吸マスクを装着する測定方法ですと、重度の患者さんには測定に耐えられません。このため、この非接触での測定システムは、重度の患者さんに適用可能な有効な方法であるという声が集まってきています。
 肺疾患を持たれている患者さんの数値を実際に測ってみるといった実験も開始しましたところ、いろいろ課題もでてきています。十分な筋力がある人を計測する場合は姿勢が安定していますので、計測が比較的容易ですが、筋力が弱い人の場合、運動時の姿勢が安定しないため、正しい計測が難しいといった課題がありました。現在、不安定な体の揺れを画像技術で追跡し、その影響を自動的に除去する技術の開発に取り組んでいます。
 

老化を抑え、健康寿命を伸ばす。高齢化社会での実用化に向けての取り組み

有酸素運動は続けないとその効果が表れないものですが、最近のスポーツ科学の研究では、無酸素運動を1週間に数回、2、3回行うだけでも、30分の有酸素運動を毎日続けるのと同等かそれ以上の効果があるということもわかってきました。体に負荷を掛け続けると、体が有酸素運動から無酸素運動の代謝メカニズムにシフトしていくのですが、負荷をかけすぎると怪我をしてしまいます。筋肉痛や、ひどい場合だと肉離れや疲労骨折などを引き起こしてしまいます。そのような状態にならないために、その人にとって最適な運動負荷を決める必要があります。有酸素運動から無酸素運動に切り替わるポイントは無酸素性作業閾値と呼ばれますが、このポイントとなる運動負荷で運動すれば、安全なエクササイズを実施できると考えています。
 高齢者にとっての生活の質を維持・向上することが医療・福祉業界でも求められていますが、そのためには運動が必要であり、運動する際の筋力が重要になってきます。
無酸素運動で運動することによって、筋量を落とさない、あるいは増やしていくような運動をする事が大切です。有酸素運動を行っても脂肪が代謝するだけですが、無酸素運動することによって、筋肉が増え、成長する。高齢になっても筋力を向上することは可能ですので、結果として老化を抑える事ができ、健康寿命を伸ばすことに繋がります。
このシステムが実用化されれば、医療、リハビリ、福祉施設に留まらず、スポーツクラブや教育機関など広い分野で利用できると考えています。また、システム・装置が安価なので、自宅で利用したいといったニーズも出てくると嬉しいですね。
 

子供の運動能力にも着目。
ヒューマンセンシング技術の活躍するフィールドを拡げたい

高齢化社会に役立つシステムをテーマに挙げていますが、最近では子供の運動能力向上に役立つ取り組みも始めています。
三次元画像計測からモーションキャプチャーを使うと、マーカーを体に取り付けなくても体の動きを計測することが可能です。この技術を利用して、エクササイズ支援システムの開発を進めています。
疑似力触覚(Pseudo Haptics)※1という人間の脳の錯覚現象を利用して、体に重りや器具などをつけずに筋活動をコントロールできないか、という研究をしています。木に登ったり泳いだりするような動きををモーションキャプチャーし、それにあわせて画面上のキャラクターが木を登ったり泳いだりするゲームを開発しました。画面のキャラクターの動きを実際の体の動きから遅らせると、腕が重たく感じ、その結果、筋活動にも影響することがわかってきました。
 
ゲームのようなアミューズメントシステムとして実用化することで、医療や介護福祉の枠を超え、若い世代が興味を持ってくれるのではないかと。そうなると、このシステムが活躍する分野はさらに広がると感じています。

※1 疑似力触覚(Pseudo Haptic)ユーザの手や手に相当するポインタなどの見え方を変化させることで、実際には触れた感触がないにも関わらず、触覚や力覚などの情報を脳に伝える技術
視覚と運動とのギャップが発生したときに、そこを脳が補おうとして起こる錯覚現象と言われている


新しい光技術の実用化に向けて、当研究クラスターと手を取り合い、共に研究開発を行って頂ける企業様、また、関心・興味のある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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